もう忘れることはないだろう。

だって信じる事にしたのだから。

自分を。大切な人を。

 

信じるものには、幸福があるのだから。

 

 

病院のとある一室は、それまでとは少し違っていた。

「何したらこんな風になるのかね」

と、医者も呆れ顔だった。

すっかり治っていた骨は欠けて、ヒビが入ったものもあった。

樹にしてみれば、飲酒運転の魔の手から一人の命を救ったのだが、医者としては迷惑らしかった。

また医者が言うには、

「いきなり走ったなんて信じられないよ。この世には神様でもいるのかい?」

 と思案顔だった。

結局の所まだ当分、病院生活は続きそうだ。

「あ~退屈だー」

あの事故から数日しかたっていないのに、まるで昔のように感じられる

あの時はすっかり忘れていたが、つかさは難聴で右耳しか聞こえないのだった。

だから、結局は近くに行くしか助ける方法がなかった。

「あ、そういえば来年の大会には出るの?」

「いや。でないよ」

「なんで?」

「まあ、調整だな」

言って、樹は、無邪気に笑った。

「じゃー二年後、期待してるよ?」

「おう、まかせてよ」

そうさ。

やってやる。

「誰よりも早く駆け寄るなら、やっぱ一番じゃなきゃな!」

 

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