Fate――Sing a song
雲ひとつない青空の下の、小さな庭園。
大きな木陰に白い犬。
そこに少女がひとり。
泥除けのエプロンを身につけた、庭師のような格好で。
少女は大きな如雨露でたくさんの花に水を与えます。
「この花は活き活きとしているね」
ひとつの黄色い花に触れると、
「嬉しいことがあったからさ」
としゃがれた声が答えた。
「この花はしおれているね」
ひとつの蒼い花に触れると、
「辛いことがあったからさ」
返事をしたのは椅子の上に置かれた、大きな本でした。
「此処にある花は、人の心」
他の花が綺麗に、立派に咲く中で、しおれた花はいくつもありました。
まるで其処だけ穴が開いてしまったように。
グッタリ、と。
「あーあ。また増えちゃったね」
「諦めるのかい?」
大きな本が訊いてきました。
「まさか」
はじめから、少女の答えは決まっていました。
誰かの思いを伝えるために。
誰かの記憶を伝えるために。
誰もが皆、綺麗に、立派に、咲けるようにと。
これは少女の大切な仕事。
だから、笑顔で答えました。
「さぁ、お手入れしましょうか」